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水戸地方裁判所 昭和48年(タ)6号 判決

原告 上田照子(仮名)

被告 上田公司(仮名)

主文

原告と被告とを離婚する。

原・被告間の二女まり子(昭和四〇年五月一四日生)の親権者を原告に指定する。

被告は原告に対し金八〇万円の支払をせよ。

原告の養育料の請求を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

原告は、「原告と被告とを離婚する。原・被告間の二女まり子(昭和四〇年五月一四日生)の親権者を原告に指定する。被告は原告に対し金一〇〇万円および昭和四八年二月九日より二女まり子が成年に達するまで毎月金二万円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和三六年一〇月頃被告と恋愛結婚し昭和三八年五月二七日婚姻届をしたが、昭和四〇年五月一四日原・被告間に二女まり子が出生した。

二、原・被告は結婚後神奈川県川崎市に同棲し、その後原告の実家のある本籍地に転住したが、被告は昭和四〇年四月頃訴外小山野道子と懇ろになり、年中家を留守にして生活を顧みなかつたため、原告はその親の世話になつて暮していた。

そこで、原告は水戸家庭裁判所に同居請求の調停申立をしたが、被告が真面目に働くというので右申立を取下げたところ、その後一ヶ月も経たないうちに再び外泊を続けるようになつたので、原告が注意すると被告が暴力を振うため親許に逃げて行つたが、被告が追いかけて来て原告のみならずその親までも殴打する始末で、原告の体には年中生傷が絶えなかつた。

原告は昭和四五年一〇月中母しずから金を借り、肩書住所に宅地を買い求めて家屋を建て被告とともに同居したが、被告は昭和四七年七月頃前記道子を附近に住まわせて同居し、同女との間に一子さち子をもうけ、昭和四七年一〇月二五日同女を認知するに至つた。原告は現在○○外交員として働きまり子を養育している。

三、以上のような事情で、被告には不貞な行為があり、原告は報告から悪意で遺棄され、被告との婚姻を継続し難い重大な事由があるので被告との離婚を求め、なお、原・被告間の二女まり子の親権者を原告に指定するとの裁判を求める。

しかして、原告は被告の前記不法行為により精神的苦痛を蒙つたので、その慰謝料として金一〇〇万円および本訴状送達の日の翌日である昭和四八年二月九日から右まり子が成年に達するまで同女の養育料として毎月金二万円の割合による金員の支払を求める。

と述べ、

証拠として、甲第一ないし第三号証を提出し、証人岸川しずの証言および原告本人尋問の結果を援用した。

被告は適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面をも提出しなかつた。

理由

一、公文書であるので真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証、証人岸川しずの証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、つぎの事実が認められる。

原告は昭和三六年頃被告と恋愛結婚し、昭和三八年五月二七日婚姻届を了したが、その間に昭和三八年一一月二一日長女ゆき(その後死亡)、昭和四〇年五月一四日二女まり子が出生した。原・被告は結婚当初神奈川県川崎市で同棲し、その後本籍地の原告の実家の近くにあつた物置を賃借し、大工であつた被告がこれを住宅に改造して同居したが、被告は昭和四〇年九月頃から訴外小山野道子と懇ろになり、情交関係を結ぶに至り、原告に詰問されるや原告やその母親にも暴力を振う仕末で、次第に外泊を重ね、昭和四一年頃からは帰宅しないようになり、家庭を顧みなくなつた。被告はその後も道子との関係を続け、その間に一子さち子までもうけたが、同女の出生後肩書住所地にある原告所有の土地上に新築した原告の住宅の近所に道子を転居させ、昭和四七年一〇月二五日さち子を認知するに至つた。原告は被告が殆んど生活費を入れないため自ら○○外交員として働き、辛うじてまり子との生活を支えている状態である。

このように認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定したところによれば、被告には不貞な行為があり、かつ、配偶者たる原告を悪意で遺棄したものというべきであつて、婚姻の継続を相当と認める事情も存しないので、爾余の判断をまつまでもなく、被告との離婚を求める原告の請求は正当として認容すべく、なお、原・被告間の二女まり子の親権者はその福祉のため原告と指定するのが相当である。

二、つぎに、原告の慰謝料請求について判断するに、前記認定事実に徴すれば、原告は被告の一連の不法行為により妻としての名誉を著しく傷つけられ、多大の精神的苦痛を蒙つたことは十分に推認できるところであるが、本件に顕われた諸般の事情を考慮すれば、原告の精神的苦痛は金八〇万円をもつて慰謝せらるべきが相当であると認められる。よつて右請求はこの限度で正当として認容すべく、その余は失当として棄却を免れない。

三、最後に養育料の請求について判断する。

人事訴訟手続法一五条は離婚の訴において子の監護者の指定のほか子の監護につき必要な事項を定めうるとしているところ、右監護に必要な事項とは離婚に際し親権者とならなかつた父母または第三者が監護者に指定された場合についての事項であつて、離婚に際し子の親権者となつた父母が子の養育等に要する費用は右監護に必要な事項に含まれないものというべきである。ところで、前記法条は本来家庭裁判所の審判事項ではあるけれども、離婚原因と密接不可分の関係にあるものにつき、特に例外的に通常裁判所の判断に服せしめたものと解すべきであるから、右以外の審判事項について右規定を類推適用または準用することは許されないものというべきである。しかして、本件においては前記の如く原告が二女まり子の親権者に指定されたのであつて、子の監護をなすべき者に該らないから、その養育料の請求は不適法として却下を免れない。

よつて、民訴法八九条、九二条本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田昭雄)

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